愚者の幸福論

9/17
前へ
/17ページ
次へ
 屋上は扉の鍵が壊れたままなので開いている。 生徒間で密かに共有されている話で、誰も壊れていることを教師に伝えないから、もう半年ほど壊れたままで放置されており、サボりスポット兼告白スポットだったりするようだ。 授業中なんかにここに来て、頭の悪そうな奴らに絡まれたら面倒だなぁと思ったが、ここかトイレくらいしか人目を憚れる場所は無いように思い、脳内会議の末この場所を選んだ。 「……よかった、誰もいない」  春も中頃、心地よい風が少しずつ熱気を帯びて体を通り過ぎている。 風に煽られた髪を手で押さえて、大分伸びてきたなぁとか、そんなことを考えた。 五月病等と腹のたつ言葉が盛んに使われる季節だが、これを冗談であろうと使うものは、恐らく年中、この症状に苛まれているだろう。 可哀想に。 そんなに生きるのが面倒なら、さっさと死んでしまえばいい。 酸素が勿体ない。 お前らが生きているだけで、この国はヒートアイランドなんだ。 「……屋上って入れるんだ。初めて知ったよ」 佐藤は景色を眺めるようにして扉を閉めた。 ギギギという音を上げて、なんとか扉は閉まる。 少しの静寂。 それというのも、佐藤がなかなか話し始めないからだ。     
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加