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愚者の幸福論
「――だから――ね。みんな――誰かを――仲間外れに――したりしないで――」
掠れた声で.担任の楠はそう言った。
言ったと思う、多分。
春と呼ぶには些か寒い日が連日続いている。
けれどそんなことお構いなしに時は流れ、今日から私たちは高校二年生。
ウチの学校は毎年クラス替えがあるため教室を見渡しても知ってる顔は殆どいない。
新鮮といえば新鮮な気もする。
まぁそもそも友達なんていなかったし、その辺り私の心境に大した変化はない。
「それ――これから――年間、仲良く――いきましょう――」
それにしても、初日から喧しい連中だ。
今日一日、楠の声はクラスの喧騒に掻き消され、何を言ってるのか最早わからなかった。注意をしない担任も異常だが、人の話を聞かずに喚き散らす同級生を見て、私は何処か可哀想な奴らだなと感じていた。
餓鬼だな、と。
朝のHRの後はすぐに始業式、そしてその後LHR。
楠から業務連絡というか、これから一年の心構えだとか。
一年間の大まかな行事等について話があったりした後、解散となった。
殆ど聞こえなかったけど。
楠は、白髪が混じった長い髪を後頭部の低いところでまとめ、今日一日虚ろな目で教団の前に佇んでいた。
その口元だけが、時折微笑んだり、動かなくなったり、震えていたりしていた。
あぁ、何かとてつもなく面倒くさいことが起こりそうな気がする。
進級初日から、私の脳裏を不吉な予感が走っていた。
そしてそれは、ものの見事に的中するのだ。
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