第3章 月

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 私は、本が好き。それは今でも変わらない。  でも、そう思えば思うほど、高校生時代のことを思い出してしまう。あんなに感情的になったのは初めてだった。  どうして、あんなことを言ってしまったのだろう。物事についての見方は、人それぞれなのに。  それに、本に関心の無い人は、他にもたくさんいた。好きな作家を批判する人がいても、笑って過ごしていられたのに。  私は、本当は分かっていた。  小林君のことが好きだったのだ。だからこそ、理解して欲しかったのだ。好きな人に、自分の好きなものを共有できたら、どんなに素敵だろう。そう思っていたから、とても悲しかった。辛かった。  この辛さは、なかなか癒えることは無かった。何とかしようと本屋に来ては、またあの時のことを思い出す、その繰り返しだった。  これは、私への罰なのだ、と思った。後悔を一生忘れないために、私は好きなことをするたび、苦しめられるのだ。  そして、今日もまた、本屋に来た。すると途端に、複雑な感情が静かな呼吸を邪魔するから、私は、早く物語に没頭したいと思った。  しばらく、目移りするのに任せていた私の目が、売り出し中っぽい小説の表紙で、ふと留まった。  そこには、思い出すまでもない小林君の名前が記されていた。タイトルは、『一冊の本』。  私は、まるで小林君と再会したような嬉しさで、その場で少し泣いてしまった。もしかしたら、家でも泣いてしまうかもしれないので、涙で濡れないようブックカバーを付けてもらった。  その本は、こんな物語だった。  ヒロインの女の子は、大事にしていた本を捨てられてしまう。その本を復元するために、主人公の男の子と、書かれていたことを思い出しながら再構築していく。最終的には、全然違うお話になってしまうが、二人の好きなものがたくさん詰まった、世界に一冊の本になる、という物語だった。  とても短い小説だったが、私は感動して、やっぱり泣いてしまった。  そして、ところどころ恥ずかしい既視感が垣間見え、一人で照れながら読んでいた。ヒロインの女の子の名前を見て、最初、どきっとしたが、よく見ると古田ではなく吉田(よしだ)さんになっていたことには笑ってしまった。  きっと、両想いだったのだろう。私は、自信満々にそう思った。誰が何と言おうと、私の中ではそういうことにしておくのだ。  
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