第1章 別れ

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 それから、高校を卒業するまで、古田さんと話すことは無かった。  向こうは、目も合わせてくれなかったが、俺も敢えて話しかけるようなことはしなかった。  俺は、古田さんを傷付けるつもりは無かったし、実際、古田さんも別に傷付いたわけではないと思う。俺は、古田さんを否定しようなんて思っていなかったし、それは古田さんも分かっていたはずだが、ただ、自分をではなく、自分の好きなものを否定され、馬鹿にされたのだから、単なる屈辱では済まされない部分があったのだろう。  古田さんとの関わりが一切、途絶えてしまった今から思えば、こんなに分かりやすいことは無いのに。  俺は、一人の女の子を、とても悲しい気持ちにさせてしまった。それも、好きな女の子を。  しかし、俺も嘘を言ったわけではない。相手を不快にさせるため、わざと嫌なことを言ったわけでもない。本心を言ったのだ。本気で思っていることを言ったのだ。だからこそ、だろう。古田さんは、二人の意思が、自分が好きなものという点において、真っ向から相対しているからこそ、悲しかったのだろう。  確かに、心底思う。こんなに悲しいことがあるだろうか。  大学に通い始めてからも、俺はこんなことを考え続けた。  そして、あの時の自分が間違っていたのだとしたら、どこだろうと思った。俺の周りの人は、そんなこと教えてくれるはずが無かった。  何故、俺はこんなに孤独なのだろう。  友達は多い方だし、大学生活も楽しいことには楽しい。しかし、どこまで行っても、俺は独りな気がした。 俺と同じ感情の持ち主は、世界にはいないのだろうか。  その時、また、あの日の古田さんの言葉がフラッシュバックした。ただ、今回ばかりは、重い気持ちにならなかった。何かを教えてもらった気がした。  次の週末、本屋にでも行こう、と思った。
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