第2章 出会い

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 まず最初、本の多さに驚いた。星の数ほど、という言葉は、本の数ほどに言い換えた方がいいと思った。小説だけでこんなにあるのか。  手近の、売り出し中っぽい小説を手に取ってみた。まさに、活字、という感じだった。  他のものも、そもそも自分の好みを知らない以上、何が何やら分からなかったので、とりあえず、聞いたことのある作者の本を、何冊か適当に買った。  今思えば、その瞬間が、偶然その中に入っていた、漱石と太宰と芥川たちとの出会いだったわけだが、いずれそこに行きついたことは間違いないだろう。  俺は、文学にどはまりした。  何故、言葉だけで、ここまで人に焦燥を与えられるのだろう。胸を締め付けるような切なさを伝導できるのだろう。俺に、共感者のいる安心を教えてくれるのだろう。  本に対する畏敬が高まる分、かつての古田さんへの後悔もまた、俺の中で膨れ上がって来た。この素晴らしさを理解してもらえなかったら、俺だって、心がはち切れるほど悔しくて、悲しくて堪らないだろう。  本を読むようになった当初は、正直に言うと、古田さんに対する罪滅ぼしの念が、俺の読書意欲の半分を占めていた。しかし、今となっては、俺の、文学への精神的な向上心は、本性の内側から湧いてくるようになった。  そしてついに、その文学馬鹿になった精神的な向上心は、愛を露出する側、つまり、小説家の道を志すまでに至った。  しかし、小説家への道のりは、思っていたより遥かに長かった。何作か書いてみても、まだ永遠に道すがらな気がした。  何かが足りない。それは確かだった。では、何が足りない。経験だろうか。拙いままの俺の情景描写を見る限り、恐らくそれも原因の一つと思われた。  そうであるならば、仕方が無い。  経験が無いのなら、その無知さを描くしかないだろう。無知なら、俺はいくらでも経験して来た。  思い出すまでもなく、古田さんの顔が脳内に浮かんでいた。その表情は、相変わらず悲しそうだったが、俺は、今なら笑顔にしてあげられる自信があった。  そうだった。俺はやはり、笑顔で好きなものの話をする古田さんのことが、今までずっと好きだったのだ。もし、これからも好きでいることが許されるのなら、どうかこの想いを届けたい。  こんな気持ちで書く小説は、ラブレター以外の何でもないな、と思った。  丁度いい、愛の露出にはもってこいではないか。
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