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ーーあれ……?
目を覚ますと、重要な記憶ばかりがひどく曖昧になっていた。自分の名前、現在地。
意味がわからなかった。
辺りは暗い。扉と思われる場所の隙間から光が洩れている。部屋の中のようだ。
「どうして」、「どこ」、「だれ」、疑問符が脳内をループした。漠然と、自分がだいたい10代後半で、男性であることは覚えていた。
暗闇に目が慣れてきて、もう1度辺りを見回してみてもやはり見覚えはない部屋だった。
程なくして、足元が辛うじて見えるようになり、僕は扉を開けて外に出ることにした。
どうやらこの部屋には窓がなかったらしい。外に出ると炎天下に普通の町並みが見えた。
今更にポケットを漁ったが携帯電話の類は見付からなかった。当然、身分証明書も見当たらない。あった物といえば財布くらいだ。
ーー誘拐にでもあったか?
そんな物騒な想像が脳裏を過ぎったが、直ぐにその可能性は否定できた。もしこの状況がそんな物騒なものなら、特に外傷も拘束も受けていない僕を鍵の開いたままの部屋に放置はしないだろうから。
自分自身が誰か、自分が今どこにいるのかわからない不安はあったが、不思議と思考はクリアだった。
部屋の前で立ち止まっていたって仕方が無いので、街の方に歩き始めた。もしかしたら僕を知っている人に会うかもしれないし、もし突発的な健忘症の類だったらとりあえず病院には向かっておくべきだろう。いや、自分が誰かわからない以上警察にまず行くべきか。
とにかく、僕は部屋から離れ、街に向かった。
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