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男は、ぽかんとした顔で、僧の話を聞いていた。
「今日はちょうど、彼の八百回忌にあたるのです」
いつの間にやら僧の背に、大きな黄金色の翼がはためき、その体がふわりと宙に浮いた。
──鼻は、決して、長くはなかったけれど。
「だ……大峰山、前鬼坊、様……」
日本八大天狗の一尊、大峰山前鬼坊。
その名を──人々の信仰の対象となった、尊き彼の鬼の別名を聞いた僧は、たいそう嬉しそうに微笑む。
そしてほどなく、彼は美しく輝く金の目で、宵闇に染まる空を見上げた。
見送る男に手を振ると、黄金の翼を羽ばたかせ、夕闇の空へ消えて行った。
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