炎の潔癖症 2

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「えへへ。旅の途中なんで、不定ってことにしといて下さい」  髭の男――妹戸和巳は背中を丸めながら、へらへらと笑って頭をかく。 「住所不定じゃ困るね。ご両親の家とか、連絡先になる場所はないの?」  警官はいらつきを隠しもせず、和巳に問いただす。 和巳は渋々というように、どこかしらの住所を警官に伝えている。  修はひとつため息をついた。  自分に落ち度があるとは思えないが、相手のバイクを壊してしまった以上、何らかのペナルティが課せられるかも知れない。  旅を続けるのは難しいだろう。それどころか、自分の経歴に傷がつくことにもなる。  わが事ながら、修はこれまでの自分の人生を、非の打ち所のないものだと自負していた。  学生時代に、学業で人に遅れを取ったことはなかった。成績の悪い生徒のことを、修は理解ができない。それは決して、生まれ持った能力のレベルを揶揄するわけではない。  彼らは遊びを優先させた結果、試験の出来の悪さを教師に諌められ、おそらくは家庭で小言を言われ、居残りや追試を強制されて、無為な時間を過ごしている。どうせ時間を奪われるなら、試験勉強に集中してそれなりの成績を取り、そのあとで誰に(とが)められることなく遊べば良いではないか。
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