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「日本の田舎の風景ってのぁ、どこ行っても大体おんなじだねぇ」
助手席の男はのんきな声で話しかける。
「でも、それがいいんだなぁ。原風景って言うの?誰もが心に持つふるさとの景色だよねぇ。それがどこまでも続いてるってこたぁ、つまり日本中、津々浦々で我われはノスタルジーを駆り立てられるってワケだよ。素晴らしいじゃないかぁ」
意味の判るようで判らない、どうでも良い講釈が続く。ハンドルを握る修にとっては今、それどころではない。
曲りくねった峠道が続いている。道幅は狭く、対向車が来れば双方が端に寄ってすれ違わなければならないが、それが可能な広い場所は少ない。見えないカーブの先から、スピードを出し過ぎた対向車が躍り出て来ないとも限らない。
ただでさえ、こちらは2トントラックを改造したキャンパー――いわゆるキャンピングカーだ。重量のせいで制動距離が長く、急に止まりたくても止まれない。最悪、横転の危険すらある。
そうでなくても、あんなことのあった後だ。修は神経を研ぎ澄ませ、前のめりにフロントガラスの外を睨んでいる。
遠くの山肌はまだ夏の色を残し、その表面で木々の青い陰が複雑な紋様を描いている。ちぎれ雲は、秋空の深い藍色を透かしながら流れていく。それらが杉やブナの木立の合間からときおり顔をのぞかせる様子も、路面に集中する修の目には映らない。
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