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「……なあ。そうは思わんかね?イケメン君」
苦戦する修をよそに、隣の男は無遠慮に同意を求めてくる。修は「そうですね」と面倒くさそうに返事をして抗議の意を示すが、男はものともせずにのんびり車窓を眺めている。
そんなことより。
さっきから修が気になっているのは、男が黒いビキニブリーフ一枚で真新しいシートに腰掛けていることだ。彼が長い毛むくじゃらの脚を折り曲げてシートに片膝を立てる様子を、修は迷惑げにちらりと見る。
ぼさぼさの髪にもっさりと髭で覆われた顔。Tシャツの袖をまくり上げ、日に焼けたやはり長い腕をだらんと膝に立てかけている。下着を頻繁に取り替えるタイプにはとても見えない。
洗濯したての彼のジーンズは、後部の居室に干されていた。窓から吹き込む風に揺れるそれは、打ち忘れられた特大の干物のようだ。
自らが招いた事態とはいえ……潔癖症の修にとって、それは歯の根が合わないようなストレスだった。
数時間前のあの出来事で、修の旅の計画はすっかり狂ってしまった。
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