炎の潔癖症 1

2/5
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
 大学卒業と同時に入った会社を、わずか4年で辞めた。  それでも実家住まいの修には結構な蓄えができた。足りない分は両親に借り、キャンパーの購入代金を現金で支払った。  免許取得以来ペーパードライバーだった修が、いきなりこんな車で旅に出るのが無謀なことは承知の上だった。でも、この車でなければならない理由があった。  行き先は決めていないが、なんとなく日本を一周することをユルい目標にしていた。いまだに旅そのものに食指を動かされない修にとって、続けていくためのモチベーションが何か必要なのだ。  そう。望んだ旅ではない。出来れば旅などせずに、仕事を続けたかった。  修がこれまでに経験した旅といえば、小、中学校と高校で行った修学旅行くらいのものだ。そのいずれもが、修にとっては地獄だったのだ。  なにより、ホテルや旅館に泊まるのが苦痛だった。不特定多数の人間とトイレや風呂を共有し、前日に誰が使ったかも判らないベッドや布団で寝るなど我慢がならない。他人の身体に潜む細菌やウイルスが、風呂の湯やシーツを介してこちらに感染しないと何故言えるのだ。 「それ、強迫性障害って言うんだよ」  高校時代に付き合った娘の一人にそう告げられたことがある。確かに修がネットで調べたところでは、頻繁に手を洗ったりシャワーを浴びたりを繰り返す患者の症例が紹介されていた。まさに修の日頃の行動そのものだ。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!