炎の潔癖症 1

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 その音に、バイクの運転者(ライダー)が振り返った。車高の高いオフロードタイプのバイクの背には、小山のように荷物が積まれている。重心が左右に揺らぎ、いとも簡単にバランスを崩したバイクはキャンパーの鼻先で倒れた。  進行方向へ投げ出され、転がっていくライダー。火花を散らしてアスファルトを滑るバイク。それらを視野の端に入れながら、修はブレーキペダルに置いた右足にあらん限りの力を込めていた。耳障りな鈍い音を立てて、車は道路の脇を向いて止まった。  首がガクンガクンと振られるほど強く心臓が揺れる。我に返った修は、恐る恐るドアを開け、路面に降り立った。  キャンパーは対向車線側に逸れ、倒れたバイクの前輪に乗り上げて止まっていた。センターライン上の10メートルほど先に、ライダーが仰向けに倒れている。 「大丈夫……ですか?」  掛けた声が震えているのが自分でも判った。フルフェイスヘルメットの中は覗い知れない。黒い革のジャンパーにジーンズ姿の長身が、道路上に手足を投げ出したままピクリとも動かなかった。擦り切れたジーンズの膝からは血も見えている。 「あの……」  修が脇にしゃがみ込み、肩に触れようとしたそのとき、不意にライダーがガバッと上体を起こした。慌てた修は尻餅をつく。両手で抜き取られたヘルメットの下から、モジャモジャの髪と髭がボヨーンと飛び出す。その予期せぬボリューム感に、修は思わず尻を浮かせて後ずさった。
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