第三章 ☆ 決意

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第三章 ☆ 決意

その日の夜、俺は母親と夕食を共にしていた。 父親は、いつもの事ながら不在だった。その父親が採用したシェフの料理は飽きがこないほど毎日多彩なメニューを用意してくれる。 「あの……」 「ん?」 ずっと言おうか悩んでいたが、決心をして箸を置く。そして目の前の母親に告げた。 「僕…雪愛ちゃんとこのまま結婚したいです」 目の前の母親が箸を止める。 口角が引きつってしまった。否定されたら冗談だと笑って、やり過ごそう。そう思ったが、それは必要なかった。 「本当?」 前のめりに母親が尋ねてきた。その問いかけに、驚きやショックといった気持ちは感じられなかった。 「はい、許してくださるのなら」 予想だにしなかった行動にたじろぐ。反対された場合の対策しか考えてなかったから、こんな安安と進んでしまった事に俺自身が驚いているくらいだ。暫く俯いた姿勢で何かを思案していた母親は、ふっと笑みを浮かべた。 「そう」 そしてニッコリと笑って俺に向き直った。 「本当はね、私もそうして欲しかったの」 「どうしてですか?」 提案した俺が問い返すのはおかしな話だが、あまりにもトントン拍子すぎて逆に不安になる。 「だって、貴方がヒロインと結ばれれば雪愛ちゃんは……」 言いかけて、母親は慌てて口を手で抑えた。バチンと衝撃音が響く。俺は肩をビクリと震わせた。
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