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銀世界を進む2つの影。
B「被写体は見つかったか?」
男がカメラを手に歩く女に問う。
女は見向きすることなく、辺りに目を凝らしながら応える。
A「見つかったように見える? 話しかけないで」
男はやれやれといったふうに両手を上げ、愛想のない写真家のあとに続く。
すると突然、女が立ち止まる。
カメラを構えることなくその場に佇んでいるため、不思議に思った男は前方に視線を向けた。
なにかいるわけではない。
横に並んで顔を窺っても、相変わらずの無表情を浮かべている。
先ほど話しかけるなと冷たく吐き捨てられたので、何もできない。
困り果てていると、女が静かに口を開いた。
A「もうそこに存在するものを撮ってもオリジナリティなんてないね……だったら作ればいい」
理解できず立ちすくんでいる男のほうを向くと、小さな体を預けてきた。
ハグを求めて飛び込んできたのではないことは、男の服ににじむ血を見れば明らかだった。
腹には深々と突き刺さったナイフ。
鋭い痛みに顔を歪めて、雪原の上に倒れこむ。
B「うっ……」
A「一面真っ白な中に深紅が広がる図……いいね、気に入った」
苦しむ男にレンズを向けシャッターを切る。
その出来映えを見たとき、初めて女は微笑んだのだった。
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