side 正臣 2

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『正臣くん』 楓にそう言われた時、不覚にもドキンとした。 自分から仕向けたにも関わらず、だ。 楓は今、俺と手を繋いでいることで軽いパニックに陥っているようだ。 普通に手を繋ぐんじゃなくて、指まで絡めたのも、全部計算づくだ。 俺をもっともっと意識してほしくて、敢えて指を絡めた。 幸いなことに、楓はパニックには陥ったものの、振り払われたりはしなかった。 だから、調子に乗って、こうして今電車の中でも指を絡めたままだ。 チラリ、と楓を見れば、頬を染めているのがわかった。 いい傾向、だな。 満足すると同時に、今更になって羞恥心がわいてくる。 俺、手汗大丈夫か? 顔とか赤くなってないよな? 恥ずかしくて、でもやっぱり嬉しくて、 繋いだ手にギュッと力をこめると、楓も握り返してきた。 これは、計算外だ。 少しづつ楓を落としていくつもりだったのに、こんな反応をされたら『冷静沈着』と有名な正臣でも狼狽えてしまう。 どうする? 予定を変更して今日、想いを打ち明けるか? いや、さすがに今日ってのは焦り過ぎか。 悩んでいるうちに降車駅に着き、楓のナビ通りに家まで歩いていく。 駅からは歩いて10分ほど。 もう、時間もない。 「私の家、ここだから… あの、送ってくれてありがとう」 とうとう楓の家に着いてしまった。 繋いだ手を引き寄せたのは、半ば無意識だった。 ふわり、と楓の優しい香りが鼻腔をくすぐる。 少し体勢を崩した楓の背中に手を回して、耳元で囁いた。 「明日も、送るから。教室で待ってて」 「えっ?」 戸惑いを浮かべる楓の身体を離して、俺は踵を返した。 「じゃあね。楓」 来たときよりも早足で駅に向かう。 早く、楓との距離を縮めたい。 だから。 もっと俺を意識して、俺のことで悩めばいい。 俺のことで頭をいっぱいにして、俺のことしか考えられなくなればいい。 帰りの電車の窓に映る俺の顔は、仄かに赤くなっていた。
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