side 楓 3

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職員室に向かう途中、楓は大きな欠伸をした。 昨日の夜は、あまり眠れなかったのだ。 正臣のせいで。 帰り道に手を繋いだのも、帰り際に抱きしめられた?のも、楓には理解不能なことばかりだ。 もしかして、私のこと…… そんな、自惚れみたいなことを考えては否定して。 それに、自分が正臣のことをどう思っているのかも、はっきりしない。 結局眠れたのは朝方になってからだった。 職員室に入り、数学教諭の元へ行く。 呼び出されていたのだ。 「竹山。このプリント、次の授業までに配っておいてくれ」 そう言って、かなりの量のプリントを渡される。 「あ、竹山」 声をかけてきたのは現国の教諭。 だいたい予想がつく。 「今日の放課後、1年生の小テストの採点手伝ってくれ」 普通、生徒にそんなこと頼むかな? 生徒が生徒の採点をするなんて。 第一志望の大学に推薦入試が決まっている上に、現国の成績トップを維持している私は、どうも便利屋のように扱われている気がして仕方ない。 「わかりました。失礼します」 ため息をついて職員室を出たところで、 ポン、と肩に手を置かれた。 振り返って、思わずフリーズする。 「また押し付けられたのか?」 「……ま、正臣くん」 「半分持ってやるよ」 そういって、プリントの山から半分以上を私から奪って、正臣は何事もなく歩き出す。 「で、でも校舎も違うし、悪いよ」 「いいんだよ。俺がしたいんだから」 フッと微笑んだその顔に、胸が跳ねる。 こんなの。 こんなの意識するなって言う方が無理だ。 胸のドキドキはおさまらない。 「なんで…手伝ってくれるの? それに、昨日の帰りも……」 勇気をだして聞くと、正臣は意地悪く笑った。 「さあ、なんでかな。 楓は、なんでだと思う?」 「わかんないから、聞いてるんじゃん」 顔が赤くなるのがわかる。 手を繋いだり、こうして手伝ってくれたり、気がついたら『楓』と呼び捨てられることも、全部、嫌じゃない。 正臣の気持ちはわからない。 でも、これじゃまるで………みたい。 頭に浮かんだ言葉を慌ててかき消す。 そんな楓を面白そうに見ながら、正臣は言った。 「じゃ、わかるまで毎日一緒に帰るか」 「ま、毎日!?」 ククッと笑って、正臣は先を歩いていく。 ……毎日。 これから毎日一緒に帰るの? 嬉しい、という想いが先に来て、楓はやっと認めた。 自分の気持ちを。
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