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職員室に向かう途中、楓は大きな欠伸をした。
昨日の夜は、あまり眠れなかったのだ。
正臣のせいで。
帰り道に手を繋いだのも、帰り際に抱きしめられた?のも、楓には理解不能なことばかりだ。
もしかして、私のこと……
そんな、自惚れみたいなことを考えては否定して。
それに、自分が正臣のことをどう思っているのかも、はっきりしない。
結局眠れたのは朝方になってからだった。
職員室に入り、数学教諭の元へ行く。
呼び出されていたのだ。
「竹山。このプリント、次の授業までに配っておいてくれ」
そう言って、かなりの量のプリントを渡される。
「あ、竹山」
声をかけてきたのは現国の教諭。
だいたい予想がつく。
「今日の放課後、1年生の小テストの採点手伝ってくれ」
普通、生徒にそんなこと頼むかな?
生徒が生徒の採点をするなんて。
第一志望の大学に推薦入試が決まっている上に、現国の成績トップを維持している私は、どうも便利屋のように扱われている気がして仕方ない。
「わかりました。失礼します」
ため息をついて職員室を出たところで、
ポン、と肩に手を置かれた。
振り返って、思わずフリーズする。
「また押し付けられたのか?」
「……ま、正臣くん」
「半分持ってやるよ」
そういって、プリントの山から半分以上を私から奪って、正臣は何事もなく歩き出す。
「で、でも校舎も違うし、悪いよ」
「いいんだよ。俺がしたいんだから」
フッと微笑んだその顔に、胸が跳ねる。
こんなの。
こんなの意識するなって言う方が無理だ。
胸のドキドキはおさまらない。
「なんで…手伝ってくれるの?
それに、昨日の帰りも……」
勇気をだして聞くと、正臣は意地悪く笑った。
「さあ、なんでかな。
楓は、なんでだと思う?」
「わかんないから、聞いてるんじゃん」
顔が赤くなるのがわかる。
手を繋いだり、こうして手伝ってくれたり、気がついたら『楓』と呼び捨てられることも、全部、嫌じゃない。
正臣の気持ちはわからない。
でも、これじゃまるで………みたい。
頭に浮かんだ言葉を慌ててかき消す。
そんな楓を面白そうに見ながら、正臣は言った。
「じゃ、わかるまで毎日一緒に帰るか」
「ま、毎日!?」
ククッと笑って、正臣は先を歩いていく。
……毎日。
これから毎日一緒に帰るの?
嬉しい、という想いが先に来て、楓はやっと認めた。
自分の気持ちを。
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