桜鱗伝

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 西の大陸に、宿耀(しゅくよう)という国があった。  この宿耀が最も栄えた古の清源帝(せいげんてい)の御代、星神(せいじん)を祀る昴道(みょうどう)が盛んな天華(てんか)の都にて、夏桂(かけい)桜子(おうし)という兄弟がいた。  彼らは昴道に用いる星神像や術具の作成を手掛ける昴具師(みょうぐし)であり、中でも清源帝の命により、昴道に基づいて建設された都の正門は、左右に据えられた巨大な日月双星神像(にちげつそうせいしんぞう)と併せ、兄弟の最高傑作として、現在も広く世に知られている。  兄の夏桂が日月双星神像をはじめ、多くの星神像を手掛けたのに対し、弟の桜子は、専ら厨子や星神社の設計を好んだ。その緻密な技は、清源帝をはじめとする多くの豪族を魅了し、称賛された。その最たる例が天華の正門であり、四本の大柱に巻き付く竜の彫刻から、竜鱗門とも呼ばれ、人々に親しまれている。  しかし、不思議なことにこの柱、五千を超える竜の鱗の一枚一枚に目を凝らすと、桜の花弁の形をしている。作者たる桜子の名にちなんだのであろうという説が有力ではあるが、さらにもう一つ、桜子の作品には妙な共通点があった。
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