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桜子が都に住まう長兄の夏桂を訪ねたのは、桜鱗の死から一年後の初夏のことであった。
その際、兄弟の再会の場に居合わせた昴具師見習いの一人が、この時の様子を克明に記した手記を残している。
桜子、我を弟子にせんと頭を垂る。
夏桂師、あやしがりて問ふるに、汝、母が死を悔いらば、死して母に殉ずるべしやと。
桜子、答ふる。それ、誤りなり。
母に拾われし命数果たさずして、真の子の道をなんとせん。
我、昴道に入りて命ある限り、母を想いて鑿をば振るわん。
星神に仕え、昴具を奉り、母の星に成らんことを祈るなりと申されば、
然り、これぞ孝行の鏡なりと、師、頷かれたし。
晩年、花川村に戻った桜子は、紅霞山の中腹に小さな祠を立て、村の子供たちに、紅霞山に住んでいた母の話を語って聞かせた。
また、人々の間で、春の夜空の低い位置に現れる二つの星座が、花竜座と子竜座と呼ばれるようになったのも、ちょうどこの頃だとされている。
――そして、桜子の死後しばらくして、この二つの星座にそっと寄り添う三連の星が、昴具師座と名付けられたのは、よもや偶然ではあるまい。

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