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出会い
――ベッドになにかがいる。
学校から帰宅し、自室に入った美月は瞬時に異変を感じ取った。
掛け布団の下になにかがいるのは明白で、そのなにかはもぞもぞと蠢いていた。
美月は部活で使っているテニスラケットを右手に持ち、左手で掛け布団を恐る恐るはぎ取った。
――猫? いや、違う。でも。なんだろう、この生き物は。
少なくとも美月が認識している生物の中で、目の前のなにかと容姿が合致する生物は存在しない。
目の前のなにか。
大きさ自体は普通の猫程度。だが、見る限り足と呼べるものはなく、例えるならナメクジのような下半身をしていた。全身はやや茶色く、かろうじて頭部と認識できるものからは、
触角のようなものが一本生えていた。
その触角のようなものをこの未知の生物は、ベッドに擦り付けている。
――まずい。こういうときは保健所? いやいや警察? 連絡しないと。
幸いにも目の前の生物は、掛け布団をはぎ取ったにも関わらず、美月に気づいていないようであった。
一歩。
二歩。
三歩。
美月は生物を警戒しながら、忍び足で距離をとった。
自室を出たら急いで家から飛び出し、外でスマホから警察へ連絡する。
そこまでの動きを脳内でシミュレーションした美月は、自室のドア前までたどり着いた。
後ろ手でドアノブに手をかけようとする。
「マ……テ……」
「ひっ……!」
美月の心臓が跳ねた。同時にしゃっくりにも似た声が漏れた。
――今のはこいつの声なのか? どうする。もう部屋からはすぐ逃げられるが……。
逃げた瞬間、後ろから襲われないだろうか。
美月は手に持ったテニスラケットをさながら剣士のように生物に突きつけた。
テニスラケットが武器として有効なのかは不明だが、防衛本能がそうさせた。
「マ……テ……クレ」
「なに……? よく分からないけど。待ってほしいの?」
テニスラケットは突きつけたまま、美月は問いかけた。
いつ襲い掛かられても対応できるよう、警戒は解かないままだ。
「ハナシガ……シタ……イ」
「話?」
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