出会い

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「ソウ……」 「まあ、いいけど。それより、体をベッドに擦り付けるのやめてくれる? すごい嫌なんだけど」 「……アぁ?」  生物は会話している間も、美月の方を向くでもなく、ベッドに執心しているようだった。 その姿を美月はしかめ面で睨んでいた。 「チョト……マテ……。…………………………よし、いいぞ」  生物の雰囲気が変わった。 生物はベッドからずるずると降りて、美月ににじり寄った。 「ストップ」  美月は冷たく言い放った。 「なんだ? 話がしたいのだが」 「話なら別に近寄らなくてもできるでしょ。とりあえずそこから動かないで」 「分かった」  美月は不思議だった。 自分は今、日常では有り得ない体験をしている。 さらにもしかしたら、命の危険に晒されているのかもしれない。 なのになぜ。 取り乱さず対処できているのだろう。 そして、この高揚感はなんなのであろう。 そのようなことを考えながら、美月は生物に話しかけた。 「まず、あなたは何者なの? どうして私の部屋にいるのかしら? 次に、すごい当たり前のように人間の言葉を話しているけど。それはどういう仕組みなの?」  生物は触角を少し痙攣させた。 「私は何者か。それに対して君が理解しうる言葉で言うなら……。そうだな、宇宙人が妥当か。 なぜ君の部屋にいたか。それは偶然だ。特に理由はない。そして」  生物は一息つくように話を一旦切り、 「そして、私は生き物の分泌物を取り込むことにより、その生き物とコミュニケーションが可能となる。先ほどは分泌物を体に馴染ませる途中だった。だが、今は完全に馴染んだ」  と後に続けた。  ――ああ、だからこのナメクジもどきはベッドに頭を擦り付けていたのか。 お前の汗やらなにやらを摂取していたのだと告白された美月は、普段なら相手を軽蔑し、気味悪がったであろう。 だがしかし、美月がその感情に辿り着くことはなかった。 「……えーと、とりあえずは理解したよ。最後に、あなたに敵意はないのよね?」 「テキイ……」  生物はすぐには答えなかった。 が、やがて言葉を発した。 「ああ、ない」  美月はようやく突きつけていたテニスラケットをおろした。
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