名前

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「んじゃまあ、色々話しましょうか」 「了解した」  美月は勢いよくベッドに腰を下ろした。その直後、この生物がベッドに接触していたのを思い出し、すぐさまスカートが汚れていないか確認した。……大丈夫なようだ、ナメクジに似てはいるが粘液質ではないようである。 「私の名前は赤城美月(あかぎみつき)。十六歳。女子高生」 そう言った美月は、生物をじーっと見つめた。 「なんだ?」 「いや、なんだじゃなくて。私が自己紹介したんだからそっちもしてよ。名前と年齢」 「名前。そのような概念は我々には存在しない。そもそも名前とは別個体を区別し、認識するために必要な概念なのであろう。我々は別個体でありはするが、我々の意思は同一に統率されているのだ。よって区別の必要はなく名前はない、と返答しておこう。 次に年齢だが。これはお前たちが認識している時間の流れ、単位が我々とは根本的に異なる。 よってこれも答えをだすのは困難であり……」 「あー! もう! 分かったから!」  つらつらと感情もなく話す生物に、美月はストップをかけた。 美月は右手でわしゃわしゃと長い髪を掻き毟る。 「とりあえずはさ」 「ああ」 「私のこと、お前って呼ぶのはいらっとするからやめて。美月って呼んでいいから」 「了解した、美月」 「それと、あなたに名前を付けます。あなたには必要ないかもしれないけど、私たち人間の ルールに従ってもらうから」 「了解した」  そう言った後、美月は思案した。 ――とは言え、私絶望的にネーミングセンスないのよね……。 小洒落た名前なんて思いついた試しがない。 例えば、黒猫に名前を付けるのならば『クロ』。 三毛猫に名前を付けるのなら『ミケ』。 犬なら犬種に関わらず『ポチ』と名付ける。 美月は短絡思考なのであった。 であるならば、この名前を思いつくのは当然の結果であろう。 「ナメ。ナメクジに似ているから」 「ナメ。私の名前。了解した、美月」  良かった、と美月は安堵した。 普通ならばナメクジに因んだ名前など、不名誉であると憤慨するであろう。 だが、ナメは怒らなかった。 当然である。 ナメは人間、延いてはこの地球上に存在するどの生命体との思考と、一線を画しているのだから。
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