初めましての事件

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初めましての事件

普通、給料の出ない残業というものは気が滅入るものだが不思議と彼らとの話し合いの時間は不快ではなく、むしろ外坂は、出張の後半、その時間を楽しみに昼の仕事をこなすようになっていた。 海外での仕事を成功させる秘訣は地元人とのコミニュケーションにある。 外坂が本社に報告すべき最も大事なことだった。 身だしなみを整え終わった外坂は駅から出て、舗装された歩道を歩き始める。今日から11月、コートやマフラーを着るほどではなかったが、外は少しだけ肌寒かった。 外坂は襟の隙間から風が入らないようネクタイを少し締め、ゆっくりと歩き出した。 鮨詰めのようになってのろのろと動くたくさんの車が懐かしい。 下を向いてスマホを触りながら歩くサラリーマン達が懐かしい。 普段は気にも留めなかった日常の様子が、出張帰りの外坂にとっては帰国したことを実感できるいい景色だった。 報告内容を頭の中でまとめながら歩道を進む。 引きずったキャリーケースが人に当たらないようにだけ気をつけて、あとの思考のリソースは全て報告内容の推敲に当てた。 これだけ考えれば本社でもスムーズに報告ができるだろう。 報告だけじゃない。出張で得た経験は本社での仕事にも活かすことができる。 外坂は経験を糧に成長した自分の力を早く試したくてワクワクしていた。 ところが会社の様子がおかしなことになっていた。     
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