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「相沢製紙」の入ったビルは「オリエンタルビジネスビル3」という名前だ。
ビルの名前が書かれた入り口の自動ドアを外坂とマオの2人が通る。
入り口にいた警官も、外坂が質問した警官も皆、マオが一冊の赤い手帳を見せると「ご苦労様です」と言って道を開ける。
その様子からその道の人間はマオの業務を認知していて、この現場にはマオの力が必要であるということが外坂にもわかった。
見慣れたビルのエントランスフロア。外坂は10ヶ月振りに入るビルの中で懐かしさを感じると思っていたが、いつも待機している受付嬢や、ビルを出入りする人間がいないせいか、感じることができたのは緊迫感だけだった。
「エレベーターはまだ使えるみたいだけど危ないから階段で行くよ。場所はどこ?」
マオの指示に外坂はエレベーターの脇の扉を指差した。
「あの奥です。しかし…階段で行くんですか?」
「そうだよ? なんで?」
「あの…これ」
外坂はマオに自分の持つキャリーケースを見せた。外坂のキャリーケースは大型で中身も多い。殆どの荷物は輸送で日本に送ったが、それでも小型のキャリーケースや手提げ鞄には入りきらない量が残ったのだ。
この荷物を持って10階まで階段で上がるというのは外坂にとって避けたい事態だった。
「まぁ、そこは頑張って」
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