初めましての事件

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初めましての事件

友人に「異性が興味を持つ紳士的な雰囲気と魅力が無いつまらない男の中間」と言われた容姿を見つめながら髭の剃り残しなどが無いか丹念にチェックする。 それにしても…… 鏡を見ながら外坂は再び出張のことを思い出していた。 10ヶ月という期間は個人にとっては長期間でも、企業や工場と言った大きな単位で考えると案外短い。 その限られた時間の中で、タイの工場員達はよくやってくれていた。 英語を嗜む外坂でもタイの地元人とのコミニュケーションは難航した。いちいち何を伝えるにも通訳を挟まなければならないというのは不便なものだ。 かつて神はバベルの塔の建設を中断させるために言語をバラバラにしたというが、それは最も有効な手段であっただろう。 そんな中、工場員達は真剣な眼差しで、通訳が伝えた言葉をよく聞き、よくメモを取った。 その様子を見てメモとボールペンを支給させると彼らは大変喜んでいた。 仕事に対して熱心な彼らは教えたことはすぐに実践したが、それでも元々持っている工場に対する知識の量が少ないため、様々なトラブルにぶつかった。 その度に彼らは就業時間が終わった後で工場に併設された食堂に集まり、一杯の酒を飲みながら対策を話し合っていた。     
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