初めましての事件

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意識したわけでもないのに自然と外坂の声は遠慮深く、小さいものになっていた。 警官の制服を見るとどんな人間でも萎縮する。 外坂に声をかけられた警官が真剣な面持ちで応対する。 「何でしょうか? この近辺は危険のためできれば近づかないでください」 「あの私、この建物の7階から10階にある「相沢製紙」に勤める外坂紀夫と申します。見たところ私の会社で何かトラブルがあったのではないかと思っているのですが、差し支えなければ事情をお聞かせ願います」 こういうのは取引先相手と会話するように話せば無用な揉め事は避けることができる。外坂が人生の中で学んだことの一つだ。 「なるほど、ここの方でしたが、詳しいことはお話しできませんが、貴方の勤め先である「相沢製紙」の入ったフロアで事故が発生しました。中にいた社員の避難はほとんど終わっていますが、念のため彼らには検査を受けてもらうことになっています。既に9割方の社員は病院に運ばれています。そして、当然ですが事故の原因が解明され、安全であると判断されるまで、このビルは立ち入り禁止です」 なるほど、辺りに知り合いがいないのは皆病院に運ばれたからか。     
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