初めましての事件

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初めましての事件

新しく出来た取引先がある。 その取引先が管理する工場の従業員はまだまだ未熟で、監督役が必要だ。 経験豊富な君に是非ともこの仕事を請け負ってほしい。 よくある話だ。 外坂紀夫は此度の出張を最初から振り返りながら、 駅のホームを黙々と歩く。 薄汚れたタイルの上、これでもかというくらい荷物を詰め込んだキャリーケースをカタカタと音を立てながら引きずっていく。 外坂紀夫は昨日までタイの工場に出張していた。 彼の勤める企業「相沢製紙」は海外にも多数の取引先、工場を持つため、出張の話は他企業に比べても数が多い。 さらに外坂は外国で生活するのに困らない程度には英語を話すことができるので、よりたくさんの出張の仕事が舞い込んでくる。 今回の出張は10ヶ月。今まで請け負った仕事の中でも比較的期間が長いものだった。 外坂はその10ヶ月を経て、ようやく日本に戻り、そしてこれから「相沢製紙」本社に報告に向かうのだ。 駅を出る前に近くのトイレに入る。 久しぶりに本社の人間に会う。できれば身だしなみはしっかりしておきたい。 学生の頃から変わらない、校則に全く引っかからなかった短髪、飾り気の無い黒縁の眼鏡。少し屈まないと鏡に映らない背格好。     
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