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「ここまでがシミュレーションになります」
その声を聞き、ゆっくりと目を開く。
薄暗い空間に目が慣れない。
どこがに寝かされているようだ。
「いかがでしたか?人生を貸す懐中時計は」
シミュレーション?
「ええ。今までの体験は全てシミュレーションでございます」
ここはどこ?
「私の工房の奥にある一室です。具合が悪くなられたようなので、こちらにお運び致しました」
「……僕は、生きてるの?」
やっと声が出た。
「ええ。生きておられますよ」
ベッドからゆっくりと身体を起こすと、数メートル向こう側に宝飾店の灯りが見えた。
次の瞬間、僕は再びアンティーク調の椅子に腰掛けていた。
「お疲れになったでしょう」
そう言いながらカップに紅茶を注ぐ店の男性。
僕の右手には先程の手鏡が握られていた。
恐る恐る、鏡の中を確認する。
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