人生を貸す懐中時計

27/29
前へ
/29ページ
次へ
+ 「ここまでがシミュレーションになります」 その声を聞き、ゆっくりと目を開く。 薄暗い空間に目が慣れない。 どこがに寝かされているようだ。 「いかがでしたか?人生を貸す懐中時計は」 シミュレーション? 「ええ。今までの体験は全てシミュレーションでございます」 ここはどこ? 「私の工房の奥にある一室です。具合が悪くなられたようなので、こちらにお運び致しました」 「……僕は、生きてるの?」 やっと声が出た。 「ええ。生きておられますよ」 ベッドからゆっくりと身体を起こすと、数メートル向こう側に宝飾店の灯りが見えた。 次の瞬間、僕は再びアンティーク調の椅子に腰掛けていた。 「お疲れになったでしょう」 そう言いながらカップに紅茶を注ぐ店の男性。 僕の右手には先程の手鏡が握られていた。 恐る恐る、鏡の中を確認する。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加