人生を貸す懐中時計

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僕だ。 14歳の僕の姿だ。 「ほっとしましたか?」 店の男性の声に僕は「心底ほっとした」と答えた。 「そうでしょう。様々な壁にぶつかりながらも、悩み、試行錯誤しながら人生を歩んでいけるのは、自分(・・)だけなのです。他人が決めるなんてもってのほか。分かったでしょう?ここはあなたの来る場所ではありません」 「そうだね。ありがとう。僕、行かなきゃ」 僕は急いで紅茶を飲み干すと、「ごちそうさま」と呟いて椅子から立ち上がり、扉の方へ向かった。 扉の向こう側は廃墟ビルを囲むブロック塀の外だった。 最上階を見上げるが、あの店の輝きはどこにも見つけられない。 廃墟ビルを後にし、僕は家路へと急いだ。
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