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ある年、僕は大きな賞をもらった。
誰よりも、佐倉先輩にほめられたい。
そう祈り、僕がいつもの丘でカメラと列車を待っていると、先輩は急に後ろに立っていた。
「ええ写真、撮れたね」
びっくりしたせいで、僕は列車を撮りそこねた。
「いややぁ。ヘタクソ」
ニヤアっと笑う先輩の顔は相変わらず綺麗だった。眼鏡も、ボサボサの髪も。
「ほめてよ、先輩」
「もうほめたやん」
先輩は照れくさそうに困っていた。
僕は先輩の痩せた体を抱きしめた。もうどこにも消えないように。
「ずっと一生、ほめてもらえませんか。いい写真が撮れた時だけでいいんです」
僕を抱き返す先輩の背中に、僕は頼み込んだ。
「キミ、変な子。ウチみたいなのがええの?」
先輩は不思議そうだった。その丸い眼鏡の奥の、真っ直ぐで美しい煌めき。
それを見つめて僕は笑い、うなずいた。
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