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第2話 花の咲く頃、キミは
佐倉先輩は写真が上手だった。
走る列車の躍動感。光る車体の矢のような煌めき。
受賞歴も多かった。
「桜が咲いたら本番や。毎朝、撮る練習せなね」
僕らは毎朝あの丘で会った。
先輩は僕の写真にいつも苦笑して、ヘタクソやなって言った。
悔しくて僕は写真を撮りまくり、何度も先輩に挑んだ。
けど、ヘタクソやなぁが貯まるばかりで、そこまでヌードが見たいのって先輩は呆れてた。
そうじゃない。
僕は段々、自分が何に必死かわからなくなり、一人でも丘に登って列車を撮った。
僕が少しはマシなのを撮ると先輩は笑い、まあまあええんやないのと言った。
僕が初めて小さい賞をとると、先輩はお祝いに僕にも下手くそな手編みのマフラーをくれた。
そして一年があっという間に過ぎていった。
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