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「ウチもう卒業や。気にいる写真はまだ?」
先輩は朝、丘の上で缶コーヒーを飲みながら言った。
「ヌードじゃなくていいんで、先輩の写真撮らせてもらえませんか」
「ウチより電車のほうがええよ。綺麗で強い」
先輩はそう言って不思議そうにした。
先輩はこんな綺麗なのに、どうしてそれを知らないんだろう。不思議でしょうがない。
「それでも撮らせてください」
もう頼むしかなくて、僕は先輩に頭を下げた。
「いやや。だめぇ」
先輩は笑って逃げて、一番列車が来た。
トンネルから走り出てくる車体の轟音。カメラを構える佐倉先輩。
僕はその先輩の、まっすぐな目の横顔を撮った。列車と、それを撮る先輩。
好きですって言おう。
この写真が上手に撮れたら言おう。
好き。
思いを込めてシャッターを切った。
その写真を見て先輩は初めて僕に、ええ写真やねって言った。
「だめって言うたのにぃ」
少し寂しそうに先輩は言った。
「ヌード……そんなに撮りたいん?」
「ヌードとか、関係ないです」
僕と付き合ってください。
そう言ったんだったかどうか。必死だった。
先輩は次の日からずっと学校に来なくなった。
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