序章 カシューンへの道

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序章 カシューンへの道

 新約歴2068年、私、新兵ナディットはカシューンへ向かう開拓民団の護衛の任に就いている。  カシューンは、我がイルハン王国の南部に広がる地域を指し、現在開拓が盛んに行われているホットスポットだ。とはいえ、開拓というのは聞こえの良いスローガンであって、実際は疎開を意味している。  我々人間種は長らく、ユマンと事あるごとに矛を交えてきたが、今回は旗色が悪い。どこから侵入したのか、西の防衛線を越えて、後方の穀倉地帯を襲うようになったのだ。  国力の低下を懸念した王は、カシューンに開拓団を送り、安全かつ潤沢な穀倉地帯を築かせることにした。それが、約一年前から開始されたカシューン開拓計画である。  だが、この計画には誤算があった。カシューンは決して安全な場所ではなかったのだ。  かつて神歴の時代にも開拓団を送ったという記録があるのだが、彼らが定着することはなかった。何故なら、強大な獣が跳梁跋扈していたからである。王はこの記録を知らなかったとでも言うのか。     
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