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自分の人より高い身長も、優しいと言われる性格も変わってしまってもいいから、こんな時にイラつくことのない人間になりたいと耳元で歌っているバンドマンに話しかける。携帯電話で彼らの作品を聴いているだけなので返事もなく、そんなことをした自分に対して恥ずかしさがこみ上げ、またむなしさを増やしただけだった。 いつも通り最寄り駅の本屋に寄って好きな作家の新刊を手に取り並ぶ。衝動的な行動が僕の疲れを癒やしてくれるのではないかと考えたがそんなわけもなく、雨の中をトゥデイで駆けていく。雨の日にスリップした痛々しい記憶に学んで、なるべく曲がる回数が少ない道を選ぶ。その結果遠回りになるので、余計に濡れて疲れた自分を癒すためにコーヒーを淹れ、先ほど買った本を読み始めた。そこには「過去のことばっかり見てると、事故りますよ。進行方向をしっかり見て、運転しないと。来た道なんて、時々確認するぐらいがちょうどいいですよ。」とあった。主人公の裏稼業から足を洗った男の言葉に胸を打たれた。それは作家が素晴らしいのであるがそれに気づくよりも、その言葉が僕の中で反芻され、なにか扉が開けたような気がした。開いた扉はどこに通じているのか見当もつかないが、僕は先が見えなくとも、そこに進むしかないんじゃないか、後ろを振り返らずに目の前にある道を行くしかないんじゃないか、しかし、勇気は伴わず足はすくんでいる。本を閉じた僕は次は何をしようかと考えながら僕は冷めきったコーヒーを飲み干した。
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