卒業式前の聡

1/5
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

卒業式前の聡

やっぱりいた。 白銀の世界。静かに雪が降る。雪明りであたりもほんのり明るくなる朝。静寂の時間。息をひそめて一眼レフのファインダーを覗く、少女。 凛華。 吐く息を止めるのはファインダーが曇らないように。 それとも緊張しているから? もう少し近づこうと一歩踏み入れる。 パキッ。 しまった・・・ 小枝が足元で折れた。 ここは俺らが3年間通った中学校の雑木林。校舎の裏山。 振り向いた凛華。 黒い短い髪がふわっと後ろになびく。 止めていた息を吐いたのか、鼻眼鏡は白く曇った。 「山城、なに?何してんの?こんなところで」 「凛華こそ。何やってんだよ。卒業式当日の・・・朝早くに」 「見ればわかるでしょ。写真撮ってるの。もうこの雪ともおさらばだから・・・っつ・・・あっち行ってよ。集中できない!」 手を前後に動かし、追い払う仕草をする。 そして、カメラを眼下のグラウンドに向けた。 「今日は望遠じゃないのかよ」 俺も眼下に見える校舎のほうを向いてシャッターを切った。 「荷物はもう東京に送ったから」 目の端に小さくとらえることができる凛華はゆっくりとシャッターを切った。 ゆっくりと降る三月の重たい雪が、シャッターの音を吸収していった。     
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!