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卒業式前の聡
やっぱりいた。
白銀の世界。静かに雪が降る。雪明りであたりもほんのり明るくなる朝。静寂の時間。息をひそめて一眼レフのファインダーを覗く、少女。
凛華。
吐く息を止めるのはファインダーが曇らないように。
それとも緊張しているから?
もう少し近づこうと一歩踏み入れる。
パキッ。
しまった・・・
小枝が足元で折れた。
ここは俺らが3年間通った中学校の雑木林。校舎の裏山。
振り向いた凛華。
黒い短い髪がふわっと後ろになびく。
止めていた息を吐いたのか、鼻眼鏡は白く曇った。
「山城、なに?何してんの?こんなところで」
「凛華こそ。何やってんだよ。卒業式当日の・・・朝早くに」
「見ればわかるでしょ。写真撮ってるの。もうこの雪ともおさらばだから・・・っつ・・・あっち行ってよ。集中できない!」
手を前後に動かし、追い払う仕草をする。
そして、カメラを眼下のグラウンドに向けた。
「今日は望遠じゃないのかよ」
俺も眼下に見える校舎のほうを向いてシャッターを切った。
「荷物はもう東京に送ったから」
目の端に小さくとらえることができる凛華はゆっくりとシャッターを切った。
ゆっくりと降る三月の重たい雪が、シャッターの音を吸収していった。
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