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そういえば昨日の卒業式の練習で、クラスの女子とそんな話をしていたっけ。
今日の夜にこっちを発つって。
そんなに早く東京に行きたいのかよ
そんなにこっちを離れたいのかよ。
この場所からずっとあいつのことをひっそりと見つめていたの誰だよ!
何も言わずに行くのかよ。
ここは野球部のグラウンドがよく見える場所。
校庭の端から端まで離れているが、凛華が持っているバカでかい望遠レンズでだったらよく見えるはずだ。
知っていた。
野球部の主将だった奴をずっと見ていたこと。
見ていたから。
ずっと凛華のことを。
入学したての部活も決めていない時から。
入学式の時もこの雪の様に桜の花がゆっくりと舞い散っていた。
そのなかで、カメラを構える凛華を見つけた。
ドキッとした。
まるで一枚の絵の様に。
真新しい制服に身を包み、切りそろえられた真っ黒の髪が白い花びらと同じように少しだけ風に揺れる。
違う学区から編入される生徒の一人だったから、初めて見る顔だった。
丸いメガネが印象的で。
そのころは同じ目線だったけれど・・・今、凛華の頭は俺の肩よりちょっと出るぐらい。
縮んだのか?とからかえば、膨れた顔をしてなんと返してくるだろう。
笑う凛華。
怒る凛華。
悲しむ凛華。
どんな凛華でもずっと見ていたい。見ているつもりだった。
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