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あれから、俺は凛華と同じ写真部に入って、同じ部員というどこにでもある、誰でもなれるポジションに居続けた。
それも今日で終わり。
凛華は東京に行く。
カメラの腕を買われて。高校生写真家としてデビューが決まっているらしい。
それが夢で。そのために選んだ進学先で。この町を出て行くんだ。
シャッターを切る音がした。
凛華と同じ方向を見れば、グラウンドに動く人影が。
しゃがんでは袋に何か入れている。
その風景は受験が終わってからよく見る光景で、小さい動きでも誰だかわかる。なんだかわかるんだ。
だってこの時間は奴が、グラウンドの整備をしているのを知っているから。
奴も、ここを離れて高校野球で有名な大阪の学校に進学する。
それを自分の進学先が決まってすぐに撮り始めた凛華。
何も言わないのかよ。
俺になら憎まれ口をこれでもかと言うのに。
見納めのつもりなのか。
動かずに、ずっと一点を見つめている。
何を撮ってるんだと聞いてしまおうか。
それとも、奴を見治めてるのかと言ってしまおうか。
きっと凛華の事だから、遥か遠くに見える山並を撮っていたとか、思
い出の風景を撮っていたとか、あんたには関係ないでしょとか言うのかもしれない。
俺が準備した言い訳の様に。
日差しがどんどん当たってくる。
何か話そう・・・何を話そう・・・
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