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卒業式前の凛華
パキッ。
校舎の裏山。何かが折れた音。
驚いて、音のなるほうを見た。
ああ、やっぱり来た。山城君だ。
いつもの通り首からカメラをぶら下げて、低い枝をよけるようにちょっとかがんで、息を切らして三月の重たい雪が降る校庭の裏山を昇ってくる。
前髪が吐く息の蒸気にあたって少し凍っている。
「山城君、なに?何してんの?こんなところで」
あ、今、なんだかすごい不機嫌な感じで言っちゃった。
「凛華こそ。何やってんだよ。卒業式当日の・・・こんな朝早くに」
私を唯一下の名前で呼ぶ人。
皆は鈴木凛華を略して鈴凛と呼んでいるのに。そんなのちゃんとした名前じゃないから、と言って凛華と最初から呼んだ。鈴木は何人もいるから仕方がない。下の名前で呼ぶのを許してあげよう・・・と恥ずかしさを隠して上から目線で言ったのは本入部してからすぐの事。もう三年近く前になる。
『さん』付も『鈴凛』とも一度も呼ばなかった。私だけ下の名前で呼ばれて、ドキドキしていたの、気付いていないよね。いつも怒っているように、つっけどんにしていたから。
今だって
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