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「見ればわかるでしょ。写真撮ってるの。もうこの雪ともおさらばだから・・・っつ・・・あっち行ってよ。集中できない!」
なんて言ってしまう。
傍にいると、涙かこぼれそうだから手を前後に動かし、追い払う仕草をしてしまう。
眼下に見える校舎の方向にカメラを向けた。
「今日は望遠じゃないのかよ」
怒る風でもなく静かに言う山城君。
凛華と呼んでくれるように、密かに、心の中で『聡』と何度も呼んではドキドキしていた。
もうそれも最後。
山下君も同じ方向を向いてシャッターを切っていた。
「荷物はもう東京に送ったから」
今日の夜には東京だ。
小さい頃から撮りためた写真を手書きイラスト付きでブログに載せたら、中高生になぜか受けた。そして大手出版社にスカウトされて、高校生写真作家として売り出された。
けれど、本当は通信制の学校に在籍しながら東京の病院で治療に専念することになっている。
去年の5月から体調が悪くなった。かかりつけの医院から、東京の病院を紹介されたのは夏休み直前。二学期はなんとか登校できるようになったけれど・・・。
日常の写真、特に学校の写真を撮りはじめた。
何もかもを収めたくて。自分がいた空間を閉じ込めたくてシャッターを切る。
写真の端々に移る山城君。
見上げるぐらい大きくなった山城君。
いつも、正面からは見てくれなくて。
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