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今時の学生にしては珍しいなと思ったくらいで、さして興味もなく、俺は目を閉じた。
少し眠っていたようだ。
寝過ごしたかと腰をあげたが、メロディーとともに自宅最寄りの駅のひとつ前の駅だと気付き安心してまた腰を落ち着けた。ふと目の前を見ると、先ほどまで中学生が座っていた場所に、彼が読み耽っていた文庫本がポツンと置かれていた。
なんだ、あれほど熱心に読み耽っていたのに、忘れたのか。それとも、読み終わって興味を失い、その場に捨てて行ったのか。
俺は、妙にその本が気になり、誰も見ていないのをいいことにその本を自然な素振りで拾った。
駅のホームに降り立つと、俺はその本のページを開いた。
「えっ?」
パラパラっとめくった時点で、その本には何も書かれていないことに気付いた。
でも、確かにあの学生は熱心に読んでいたのだ。何度も何度もページを繰りながら。
本屋で買えば必ずもらえる無機質な紙のカバーがつけられていたので小説か何かだと思っていた。
何も書かれていないわけではなかった。
表紙をめくった1ページ目に何かが記載されているのに気づく。
「これは、あなたの本です。さあ、記念すべき1ページを書きましょう。」
やられたなと思った。これは、ひと昔前に、巷で流行った「自分の本」ってやつか。
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