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『何にもしてないよ。色々予定入れたけど、今年は休みが長すぎてもうやること尽きた』
『こんなに長くなくてもいいな。俺もう家で仕事しちゃってるわ。んじゃ、デートでもしようか?』
『それはダメ。私は奥村とは別れたんだよ。こんなやりとりしてて言うのなんだけど…』
『いいじゃん、今のとこは友達に戻ったってことで。今まで待った時間が長すぎて、今さらこんなのどってことないんだよ俺は』
美沙はそれまでテンポよくタップし続けていた手をしばし止めた。
『私が最低な人間だってことはもう分かったでしょ。それなのにそんなことを言ってもらえる資格なんてないよ』
『そりゃまぁショックはショックだよ? が、俺は別に性格の良い子を好きになったわけじゃないからなぁ』
『そんなもんなの? 普通、あんなにひどいことされたら友達でだっていたくないって思うけど…』
『中野は重すぎんだよ。お前恋愛経験少ないだろ』
『うるさい』
雄吾の呼び方が「中野」に戻っていることに、少し心が痛んだ。
『そんな一つ一つを真剣に考えすぎると気持ちが持たないぞ。もっと軽くカジュアルに考える恋愛だってあるんだぞ。てか、真面目ちゃんなお前にはそれくらいが合ってると思う』
美沙は言葉に詰まる。
雄吾の言うことが本当に正しいのかは疑わしいが、美沙の恋愛に対する思考がいちいち重たいのは自分でも自覚している。
そして、それが美沙の真面目な性格や恋愛経験の少なさからくるものだというのも、図星なのだろう。
そう考えると、今はまさに恥ずかしさしか残っていなかった。
あんなに魅力的な宗太のことだ。恋愛に関してもそれなりに場数を踏んで、それまでの相手の女性もさぞ知的で男性をあしらうことに長けているようなタイプばかりであっただろう。
――面倒な女に関わってしまった――
もしかしたらそんな風に思われているのではないだろうか。
そう考えた瞬間、身体がカッと熱くなり、美沙は手近にあったクッションを顔に押し付けた。
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