始まりの日

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「美沙、こっち!」  落ち着いた店構えの和風居酒屋に足を踏み入れたところで、すぐ手前の半個室から親友の顔が覗いていた。  美沙は小さく舌打ちした。やはり遅刻してしまったか――。 「彩乃、ごめんね遅れて」  美沙は慌てて半個室の暖簾をくぐる。  目に飛び込んできたのは、そんな美沙を立って出迎える男性の姿だった。  背がすらっと高く、すっきりした顔立ちに整髪料を使っていないサラサラとした黒髪。石鹸の香りでもしそうな清潔感のある男性だ。控え目で柔和な笑顔に好感が持てた。 (うわ、イケメン――――)  美沙は息を飲む。男性の向かいにいた彩乃が声を掛ける。 「お疲れ様! 座って。私たちも今着いたばっかりなの。」 「あ、うん」  美沙は返事をしながらパンプスを揃えて脱ぐ。見たところ、どうやら目立った汚れはついていないようでホッとした。 「美沙、ビールでいいよね? すみませーん、生ビール3つでお願いします!」  彩乃は美沙に形ばかりの確認を取ると、店員を呼んで注文をする。そのまま彼氏と思われる男性の隣へ移動したので、4人掛けの席に、美沙と対峙するように男性と彩乃が座る形となった。 「あの、本当に遅れてごめんなさい。私、彩乃の高校時代からの友人の中野美沙です。えっと……」 「木村宗太です。中野さんのことは彩乃から毎日のように聞いているから、何だか初めて会った気がしませんね」  目の前の木村宗太が、最初に見せた柔和な笑みをさらに深める。 「確かに。私も木村さんのことは色々前情報仕入れてるので、前からの知り合いみたいです」  美沙も笑みを返す。宗太のように綺麗な笑顔だったかは自信がないが。 「ふふ、じゃあ私の作戦は成功だね。人見知りの美沙が緊張しないように、そうちゃんの話題は事前に美沙にたくさん提供してきたんだから」 「げっ……彩乃、お前一体なんの話したの……?」
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