1人が本棚に入れています
本棚に追加
放課後。真人は家に帰ることをためらっていた。それはライブ会場での出来事をまだ家族に話していなかったからだ。あの日、無事に家には帰ってきたが真っ直ぐ自分の部屋に行ってしまい、そのまま寝てしまったため何も伝えていないのだ。朝はみんなバタバタしていて話す余裕はなかった。同じアイドル好きの母と姉はライブに当たらなかったため、真人の感想だけが唯一の楽しみなのである。
社長と会ったなんて言ったらなんて言われるだろう、どんな顔をするだろう。それがどういう意味か、いろんなアイドルを応援してきた二人はすぐにわかるだろう。アイドルのことなんかさっぱりの父も、意味をちゃんと分かってくれるだろうか。迷っていてもしかたない、とにかく伝えよう。ゆっくりと歩いていた足を速めて真人は家へと向かった。
逢羽家の夕食の時間。真人の姉の仕事の話で盛り上がっているなか、真人は話を切り出すタイミングを探していた。
「あのさ! 昨日の桜花さんのライブの話なんだけど……」
「そうだよ! まだ話聞いてなかったじゃん! どうだったの?」
「……社長さんに会った、シープロの」
「「シープロの社長に!?」」
「うん。名刺もらって、一度事務所に来てみないかって……」
真人の話に三人は驚き、数分の沈黙が流れる。それを破るように姉が口を開く。
「あんたは、アイドルになりたいの?」
なりたい、なりたくない――。そうだ、人の顔色を窺うんじゃない。一番大事なのは自分の気持ち。
「……なりたい」
真人は徐々に軽くなる心から、自分の気持ちを話し始めた。
「初めて行ったマジリプのライブでてぃらくんを見て、自分もあんな風に輝きたい、誰かを笑顔にしたいってずっと思っていたんだ」
真人がアイドルに憧れたきっかけ。五歳の時、姉と母と行った当時人気だったアイドルグループ『Magic Lips』のライブで見たグループのリーダー、てぃらのパフォーマンス。ライトに頼らず自ら輝き、終始笑顔を絶やさないてぃらを見た真人は、一瞬で心を奪われてしまった。今でも彼への憧れは変わっていない。
「その気持ち、大事にしなさい。お母さんたちは応援するよ」
「お前らしく、キラキラ輝けよ!」
自分にきた大きなチャンスに、家族は優しく応援してくれた。
「……ありがとう! 僕、絶対頑張る!」
最初のコメントを投稿しよう!