1章 愛のユリを咲かす者

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 真人は拍子抜けしたようにポカンと口を開けていた。社長のこの言葉で、今までの周りの視線の意味がようやく理解できたからだ。瑠馬は何も動じずに真面目に話を聞いていた。 「真人くん一人の時よりも、輝きもオーラも違う。言いたいこと分かるかな、瑠馬くん」 「俺と真人でアイドルグループを組ませたい、ということですか?」 「そういうこと。理解が早くて助かるよ」  真人とならアイドルをやってもいいという気持ちは心の片隅にはあった。だけど瑠馬は迷っていた。 「暗い話になりますが、聞いていただけますか?」 「ええ、ちゃんと聞くわ」  瑠馬が迷う理由。瑠馬は五歳の時に事故で父親を亡くした。それから瑠馬は母親と妹は自分が守らなくてはいけないと心に決めていた。毎日仕事や家事で忙しいのに、ダンスに興味があった自分をダンス教室に通わせてくれたり、部活に必要な道具も揃えてくれた母を早く楽にさせてあげようと、高校に進学したらバイトを始めるつもりでいた。だけど今、芸能事務所に入るなんて言ってこれ以上母に負荷をかけたくなかった。 「だから、自分はまだ保留ということで……いいですか?」 「わかったわ。ちゃんと話してくれてありがとう。いくらでも待つからゆっくり考えてきてね」  事務所を後にした二人は駅までの道をゆっくり歩いた。途中で真人が口を開く。 「瑠馬、無理しなくていいからね? 僕は一人でも大丈夫だから」 「でも俺は、お前とアイドルがやりたい」 「どうしても僕と一緒がいいの?」 「ダンス教室に通っていた時、二人組のダンスでコーチやみんなから好評を得たのを覚えているか? あの時から、お前となら何でも上手くできそうな気がしたんだよ」  気が付いたらいつも一緒だった自分たちが、一緒じゃなくなる瞬間がくるのが瑠馬は怖かった。だから余計に諦められなくなっていた。 「もしお前だけがアイドルなって、活動が忙しくなっても、お前は俺と仲良くしてくれるか?」 「もちろん! 瑠馬は僕の良き理解者で、超仲の良い友だちであることに変わりはないよ!」 「……ありがとな」  どんな状況であっても優しい言葉をかけてくれる親友に、瑠馬は嬉しくて涙が溢れそうになった。
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