第二章

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B「ただいま」  家に帰って来た僕は、部屋の明かりをつける。築三十年のアパートの床を踏むと、ぎしりと音が鳴る。  彼女を冥府の宿舎に送り届けたり、なんだかんだしていたら、日付が変わってしまった。 B「……」  六畳間の丸テーブルの上に鞄を置いて、その横の、扉を見つめてふっと笑う。  立ち上がり、扉のノブをまわす。  冷気が、頬をなでる。室温がかなり低く設定された、その部屋の真ん中。  扉を後ろ手で閉じて、そして、真ん中にある棺の傍らに寄り添い、力をこめて開ける。  黒いワンピース姿の、【彼女】。その傍らの、血濡れたマフラー。 B「ごめんね、遅くなっちゃった」  僕は、目を閉じて動かない【彼女】の頬をなぜた。 B「今日も君と一緒に過ごせて楽しかったよ……色々話してあげたいけど……今日はおやすみ。明日も仕事だからもう寝なくちゃ」  【君】がここにいれば、僕は、君とずっと一緒にいられるんだ。誰にも見つからないままで。  僕は、君の写真を撮りたくなんかない。  僕の手の届かないところに、君を行かせたくない。  眠る【彼女】の黒髪を撫ぜ、僕はその白くて冷たい、氷のような手の甲にキスをする。 B「これからもずっと一緒だよ……」  第二章 終幕                 【完】
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