0人が本棚に入れています
本棚に追加
B「ただいま」
家に帰って来た僕は、部屋の明かりをつける。築三十年のアパートの床を踏むと、ぎしりと音が鳴る。
彼女を冥府の宿舎に送り届けたり、なんだかんだしていたら、日付が変わってしまった。
B「……」
六畳間の丸テーブルの上に鞄を置いて、その横の、扉を見つめてふっと笑う。
立ち上がり、扉のノブをまわす。
冷気が、頬をなでる。室温がかなり低く設定された、その部屋の真ん中。
扉を後ろ手で閉じて、そして、真ん中にある棺の傍らに寄り添い、力をこめて開ける。
黒いワンピース姿の、【彼女】。その傍らの、血濡れたマフラー。
B「ごめんね、遅くなっちゃった」
僕は、目を閉じて動かない【彼女】の頬をなぜた。
B「今日も君と一緒に過ごせて楽しかったよ……色々話してあげたいけど……今日はおやすみ。明日も仕事だからもう寝なくちゃ」
【君】がここにいれば、僕は、君とずっと一緒にいられるんだ。誰にも見つからないままで。
僕は、君の写真を撮りたくなんかない。
僕の手の届かないところに、君を行かせたくない。
眠る【彼女】の黒髪を撫ぜ、僕はその白くて冷たい、氷のような手の甲にキスをする。
B「これからもずっと一緒だよ……」
第二章 終幕
【完】
最初のコメントを投稿しよう!