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家々の塀に囲まれた道で、赤いランドセルを揺らし走る少女。
今日は春休みが終わった初登校の日だった。
そして、今日から小学六年生、晴れて最高学年。
清々しい程、道の両袖には桜の桃色が満ちる。
歓迎するように頭の上から舞い散らせてくれていた。
彼女の短く、少し明るめな黒髪をそっと撫でながら落ちていく。
彼女の笑顔から零れる短い吐息。
このとてもご機嫌な陽気こそ、少女が走りたくなった理由だった。
彼女が走っていくと、てぃ字路から同じくらいの背丈の女の子が現れた。
ブロンドの艶やかな長い髪の、優しそうな表情の女の子だ。
彼女は、走る少女ににっこりと笑顔を見せた。
「咲ちゃんおはよう、何で走ってるの?まだ時間いっぱいあるよ。」
咲はさくらの花に負けないくらいニッコリと笑顔を見せた。
「おはようございます、朋美ちゃん。この春の陽気に走らされちゃいました。」
そして、少しきれていた呼吸を小さく整え、彼女は可愛らしい舌をペロっと見せた。
「そっかぁ。」
朋美は、またかあ、というように柔らかな笑顔で顔を横へ傾けた。
簡単に言うならデレッとした。
彼女にとって咲の笑顔は、一日のスタートから幸運の天使が舞い降りたって位、心をときめかせてくれるものだった。
そんな、桜舞い散る和やかな二人の空間を、誰かの陰謀でコメディに変えてしまおうとするかの様に、咲の頭に一冊の本が降ってきて……直撃した。ごちんって。
「いった~い、なんですかこれ?」
大丈夫?っと咲の頭にケガがないか確認する朋美をよそに、咲はその本を手に取った。
つるや花の刺繍の入った赤色の皮の表紙。
開いてみると、中はとても分厚く丈夫な真っ白な厚紙でページが構成されていた。
文字や絵はまだない。
「どうしよう、交番に届けようかな。」
「そうですね……。」
「敵が来るぞ!」
二人は顔を見合わせた。
二人は、敵が来るぞ!何て言っていない。
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