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そんなある夜、白杖を置いたままケイはベランダに出た。
引き取られた親類のマンションは高層階にある。
はるか上空には、半透明の船。
その下で、一つの人影(ヴィス)が地上を見下ろしていた。
ケイの存在に気づき、背後に降り立って様子をうかがうヴィス。
ケイは危なっかしい動作で、ベランダの柵に腰掛ける。
頬の風が、目の前が宙であることを知らせていた。
「そこから飛び降りるつもりですか?」
浮かせかけた腰を止めるケイ。
特殊な形状のブレスレットに手を当てると、ヴィスの身体が無重力状態のように宙に浮いた。
「もしよかったら我々の星に来てもらえませんか」
身体を支えられ、ケイはそんな声を耳にする。
陽だまりのように柔らかな声だが、聞き覚えがない。
けれども、不思議と恐怖や戸惑いはない。
ケイは見えない目で、ヴィスの顔に視線を送った。
それから2人は、取引を交わす。
目を治す代わりに、遠く離れたダール星を訪れること。
ヴィスはなんらかの理由で、異星の民を必要としているようだった。
数日間、メディカルスキャナを放射しているうちに、ケイの視力は回復した。
ダールへ行って何をすればいいのかと改めて問うと、ヴィスは部屋にある本棚を指さした。
そこはケイにとってもっとも大事な場所。
世界各国の遺跡の写真集がいくつも並んでいる。
「そこの書物からは、この星の歴史の一端が垣間見えます。この星の人たちは、争うことで互いの存在を認識しているのですね。我々の星では争うことすら放棄してしまいました」
何か事情があるのか、物憂げな表情。
会話はもとより、文字が読めることに気づき、ケイは不思議がる。
ヴィスはブレスレットで本を照射した。
するとスクリーンのようなものが現れ、見たことのない言語が表示される。
それは言語変換機能や、母艦との相互リンク機能などを備えた万能ウェアラブルだった。
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