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歯磨きをしてからでないと、だめなひとだった。 わたしはチョコレートミントのアイスを、食べることができない。 * 音が聴こえにくくなる雨の日は、部屋の中にいると、閉じ込められてしまったかのように感じる。この部屋を残して、それ以外はなにもかもなくなってしまって、外にはただ白いだけの空間が、広がっているのではないだろうか。窓ガラスを伝う透明な粒や、道路を挟んで向かいの家の瓦屋根などが見えても、すべてがぼんやりとして、ほんとうのことではないみたいに映る。窓に描かれた、絵みたいに。 「外に、なにかあるの?」 「なにも」 「アイスたべる?」 「うちにアイスないよ」 「来るとき、買ってきた」 「抹茶か小豆なら」 「ざんねん、一種類しかないんだわ」 そう言って、冷蔵庫の前に屈んだまま彼女が掲げて見せたのは、アイスバーの箱。チョコレートミント、七本入り、三百円。 「わたし、それだめ」 「歯磨き粉の味がする?」 「そんなところ」 「六本入り買ってきちゃった。どうしよ」 「ぜんぶたべて帰って」 「さすがに」 その日は二本たべて、残りは冷凍庫に残していった。 自宅の冷凍庫にチョコレートミントのアイスを見るのは、いつ以来だろうか。 *     
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