序章

1/4
20人が本棚に入れています
本棚に追加
/280ページ

序章

 ジリジリとアスファルトを焦がす灼熱の太陽が、やや西に傾きはじめた午後。 「こんにちはぁ!」  店先で野菜の並べ替えをしていた八百八(やおハチ)の大将は、背後からかかった元気な声に振り返った。日に焼けた厳つい顔に、たちまち人の良い笑みが浮かぶ。 「おう、雛姫(ひなき)ちゃん。らっしゃい! 暑いのにいつも感心だねえ。今日はなにをご所望かな?」 「トマトとレタスください」 「あいよー! 真っ赤に熟れた、最高に美味(ウマ)いのがあるよ。暑いからとりあえず(なか)入んな。おい、かかあ、ギンギンに冷えたジュース持ってこい!」 「なんだよ、店先でうるさいねっ……っと、おやまあ、雛姫ちゃん!」 「こんにちは、おばさん」  住まいに繋がるレジ奥の暖簾(のれん)を掻き分けて、前掛け姿の年配女性がしかめっ面を覗かせた。しかし、大将につづいて店に入ってきた少女を見るなり、愛想のいい笑顔になって挨拶を返した。 「小さいのにいっつも偉いねえ。暑かったろう。ちょっと待っておいで」  言うなり顔が引っこんで、パタパタと奥へ走っていく音がする。大将はそれを見て「なんでい、勝手な奴め」と悪態をついた。
/280ページ

最初のコメントを投稿しよう!