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序章
ジリジリとアスファルトを焦がす灼熱の太陽が、やや西に傾きはじめた午後。
「こんにちはぁ!」
店先で野菜の並べ替えをしていた八百八の大将は、背後からかかった元気な声に振り返った。日に焼けた厳つい顔に、たちまち人の良い笑みが浮かぶ。
「おう、雛姫ちゃん。らっしゃい! 暑いのにいつも感心だねえ。今日はなにをご所望かな?」
「トマトとレタスください」
「あいよー! 真っ赤に熟れた、最高に美味いのがあるよ。暑いからとりあえず店入んな。おい、かかあ、ギンギンに冷えたジュース持ってこい!」
「なんだよ、店先でうるさいねっ……っと、おやまあ、雛姫ちゃん!」
「こんにちは、おばさん」
住まいに繋がるレジ奥の暖簾を掻き分けて、前掛け姿の年配女性がしかめっ面を覗かせた。しかし、大将につづいて店に入ってきた少女を見るなり、愛想のいい笑顔になって挨拶を返した。
「小さいのにいっつも偉いねえ。暑かったろう。ちょっと待っておいで」
言うなり顔が引っこんで、パタパタと奥へ走っていく音がする。大将はそれを見て「なんでい、勝手な奴め」と悪態をついた。
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