序章

2/4
20人が本棚に入れています
本棚に追加
/280ページ
「レタスはいつもどおり半分でいいね? トマトはいくつにする?」 「うーんと、じゃあ3つ」 「はいよ。とれたてだから美味いよ」  大将は、レタス2分の1個と籠に入ったトマトを手際よくそれぞれビニールに詰めてくれた。 「いいねえ。明日っから夏休みだろ? どっか遊びに行くのかい?」 「友達とプール行く約束はしてるけど、まだよくわかんない。帰ってからヒロ兄に訊いてみないと。ヒロ兄も明日から夏休みなの」 「偉い学者先生だもんなあ。若いのにたいしたもんだ。あれ、なんてったっけ? センセが研究してるガクモンは」 「ん、とね、シューキョーミンゾクガク? 家に難しい本がいっぱいあるけど、あたしにはちっともわかんないの。でも、ときどき入ってる挿し絵とかは面白くて好き」 「たしか去年の夏も、ガッカイとかの集まりがあるってんで、旅行がてら雛姫ちゃんも熱海に連れてってもらってたもんなあ」 「白浜だろ? なんだい、温泉てとこしか合ってないじゃないか」  奥からお盆を手に戻ってきたおかみさんが、雛姫にオレンジ・ジュースとマドレーヌを勧めながらすかさず横槍を入れた。 「うるせぇな、どっちだって似たようなもんだろ。あ、雛姫ちゃん、そこ座んな」  手近の丸椅子を勧められ、雛姫はお礼を言って受け取ったグラスを手に腰掛けた。
/280ページ

最初のコメントを投稿しよう!