序章

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「雛姫ちゃん、よかったらこのほうれん草も持ってくかい?」 「え、いいんですか?」 「ああ。この暑さでやられちまって、鮮度が落ちちまってるからな。売りモンになりゃしねえ。傷モンですまねえが、よかったらもらってやってくんな」 「ありがとう。いただいていきます」  雛姫はその厚意をありがたく受けて、トマトとレタスの代金を支払った。おかみさんがほうれん草と一緒にお皿に手つかずで残ったマドレーヌもふたつ、ビニール袋に入れてくれる。雛姫はそれにも礼を言ってぺこりと頭を下げた。 「またおいでね」 「はい。ごちそうさまでした」  麦わら帽子をかぶりなおした少女は、ビニール袋をさげて元気に帰っていった。夫妻はそれをあたたかい眼差しで見送る。 「素直でいい子だ」  夫の呟きに、糟糠(そうこう)の妻は「ほんとにねえ」と心から同意した。
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